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教員コラム

Vol.24  骨格筋の循環・代謝と健康づくり

最大酸素摂取量と健康づくり

運動時には筋収縮のためのエネルギーが多量に必要となるため、身体に酸素を多く取り込む必要があります。身体に取り込むことができる酸素摂取量の最大値は最大酸素摂取量と呼ばれ、全身持久力(持久性パフォーマンス)の重要な指標であることが広く知られています。一方で、この最大酸素摂取量は、健康づくりにも深く関係しており、全身持久力(最大酸素摂取量)が低いと、心血管疾患やがんによる死亡率が高くなってしまいます(図1)。日本では科学技術の進歩による不活動化に社会の高齢化も相まって、人々の低体力化は今後も進行することが予想されます。そのため、最大酸素摂取量低下の背景にある運動生理学的なメカニズムを解明し、低体力化を改善・予防することは喫緊の課題です。 
高木 俊 助教

高木 俊 助教

図1全身持久力と死亡率の関係
図1 全身持久力と死亡率の関係

近赤外分光法からみた骨格筋の循環と代謝

運動時の酸素摂取には肺、心臓、血液、骨格筋など、さまざまな身体の臓器や組織が関わっていますが、私は特に近赤外分光法という方法を利用して骨格筋における循環と代謝について研究を進めてきました。近赤外分光法とは,文字通り近赤外分光を利用した方法で、図2のような近赤外光の送光部と受光部からなるプローブを皮膚表面に貼り付けることで、運動中の骨格筋における酸素飽和度を非侵襲的かつ連続的に評価するものです。肺で外気から身体に取り込まれた酸素は最終的に骨格筋に運ばれて利用されます。そのため、骨格筋における酸素飽和度を評価することは運動中の循環と代謝を考える際に非常に有効な方法です。
図2
図2 近赤外分光法の測定プローブと測定の風景

 心疾患患者は最大酸素摂取量が低いことで知られています。図3は心疾患患者と年齢・体格等をマッチングした心疾患を持たない中高齢者における自転車運動中の骨格筋における酸素飽和度(SmO₂)を近赤外分光法にて評価した研究結果です。通常、中高齢者(赤)のように運動強度が増大すると骨格筋における酸素利用が大きくなるため、SmO₂は徐々に低下していきます。しかし、心疾患患者(青)においては運動強度が増大してもSmO₂が減少しません。そしてこのSmO₂の変化は最大酸素摂取量の低値と密接に関連しています(図3)。さらに、図4・図5は、心疾患患者を対象に12週間の有酸素性トレーニングを実施した結果です。トレーニング前は運動中のSmO₂が減少しませんが、トレーニング後には減少するようになり、最大酸素摂取量も大きく改善されます(トレーニング非実施しない心疾患患者では、いずれも変化なし)(図4)。そして、トレーニング前後におけるSmO₂の変化量が最大酸素摂取量の改善と極めて強い関係を示します(図5)。
図3 心疾患患者における運動中のSmO2と最大酸素摂取量
図3 心疾患患者における運動中のSmO₂と最大酸素摂取量
図4 有酸素性トレーニングが心疾患患者における運動中のSmo2と最大酸素摂取量に及ぼす影響 
図4 有酸素性トレーニングが心疾患患者における運動中のSmO₂と最大酸素摂取量に及ぼす影響
図5 有酸素性トレーニングによるSmO2の変化と最大酸素摂取量の改善との関係(心疾患患者) 
図5 有酸素性トレーニングによるSmO₂の変化と最大酸素摂取量の改善との関係(心疾患患者)
 
 これらの研究結果は、心疾患患者のような低体力者では、骨格筋に送られた酸素を十分に利用できていない、つまり酸素利用能が低下しており、この筋酸素利用能の低下が最大酸素摂取量の低値と強く関連していることを示しています。心疾患患者と聞くと、心臓の機能低下を想像してしまいますが、(実は)骨格筋における酸素利用能(代謝能)の低下が最大酸素摂取量の低下と密接に関係している可能性があります。そして、運動トレーニングによる筋酸素利用能の改善が最大酸素摂取量の改善と極めて強く関係しますので、心疾患患者のような低体力者の健康づくりにおいては、骨格筋の代謝機能の改善が極めて重要であると考えられます。  

今後の研究における課題と展望

今回は、特に最大酸素摂取量が低値である心疾患患者を対象とした研究成果を中心に紹介させていただきました。しかし、これまでに確認された筋酸素利用能の低下は、特に心疾患患者特有のものである可能性も残されています。また、現代には多様な疾患があり、様々な年代において不活動化に伴う体力低下が問題となっています。私は、非侵襲的な測定法を駆使してヒトの循環・代謝機能と体力の関係を検討することで、様々な健康問題の解決に貢献する研究を進めていきたいと考えています。

参考文献
1) Blair SN et al., JAMA. 1989;262(17):2395-401.
2) Takagi S, et al., Med Sci Sports Exerc. 2014;46(11):2062-9.
3) Takagi S, et al., Eur J Appl Physiol. 2016;116(4):673-85.

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