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教員コラム

Vol.4  『スポーツ医学』 ~医学的観点からスポーツと健康をサポートする~

スポーツと健康

 スポーツには,勝利や記録といった結果を求めて競い合う競技スポーツと健全な身体を保つために行う健康スポーツがあります。
 競技スポーツでは,アスリートは勝利を求めて個々の肉体や能力の限界域で競い合うため,怪我(スポーツ外傷)を経験せずに競技人生を全うできるアスリートはほとんどいません。また,繰り返すハードな練習によって故障(スポーツ障害)も生じます。長期にわたってアスリート生命を保つためには,これらのスポーツ外傷や障害の発生をできるかぎり防止し,不幸にも傷害を負った場合にも再びフィールドに戻るためのメディカルバックアップ体制が重要です。また,競技スポーツや商業スポーツの発展は,身体の完成していない小中学生に大人の夢を乗せた無理なトレーニングを課すことになりがちです。その結果,成長期特有のスポーツ障害を引き起こし,若くしてアスリートへの夢を諦めざるを得ない状況になることもあります。指導者は成長期の身体の特徴を知り,障害を起こさないトレーニング指導や障害の早期発見に努めなくてはなりません。
 一方,健康長寿は誰もが願うことですが,急速に進む高齢化社会に直面しているわが国において,介護を受けずに自立した生活が送れる期間である“健康寿命”の延伸こそがこれからの医療政策に課せられた使命です。そのためには,心筋梗塞・脳卒中などの血管障害や転倒骨折の原因となる生活習慣病・メタボリック症候群への対処が緊急の課題となっています。医療費の急激な膨張が国家予算を圧迫している現在,これらの課題に対する最も安価で効率のいい手段として,老若男女すべての国民を対象とした”健康スポーツ(=運動習慣)”の重要性が高まっています。ただし,すでに身体に種々の病気や障害を持った人が安全に運動するには,運動前のメディカルチェックとその結果に基づく適確な運動指導が必要となります。
 スポーツ健康科学分野における医学の関わりは,これらの課題に対する専門的な知識や問題意識を持った人材を育成することにあると考えています。


運動器検診:子どもたちの運動器の健やかな成長を見守る

日本整形外科学会では,2000年~2010年を「運動器の10年」と位置づけ,運動器と運動の大切さを伝える活動を行ってきました。運動器とは,骨や関節,筋肉など体を動かす器官のことです。近年,しゃがむと尻もちをつく,両手を真っ直ぐに上げられなといった子供たちが増えています。学校保健安全法に定められた小中学校の健康診断には,主に内科的な検診が義務付けられていますが,運動器の健康チェックは側弯症以外は実施されていません。
成長期にある青少年の運動器の障害を予防するために,整形外科の専門医として,京都府医師会や京都府立医科大学整形外科学教室の協力のもとに,いろいろな現場で小中学生の運動器の検診を実施しています。
 全国規模のプロジェクトになりつつある野球少年の上肢検診がその一つです。超音波診断装置を使うとこれまで早期発見が困難であった野球肩や野球肘といわれる投球障害を症状が出る前に見つけることができます。有志の医師や理学療法士の方々と中学校の野球部へ出向いたり,野球教室や野球大会の現場へ出張して検診を実施しています。さらに,今や冬の風物詩となった「京都市小学校大文字駅伝」に参加する子どもたちの下肢検診にも参加しています。
 そのほか,地域のバレエ団と連携して未来のプリマドンナを目指す子どもたちの下肢の検診も行っています。クラシックバレエのポワントと呼ばれる独特の爪先立ちは足への負担が大きく日頃のケアが大切です。海外のバレエ団には専属の医師がいることが多いですが,日本ではバレエを学ぶ子どもの数は多いが,身体を管理する体制は不十分です。アスリートのメディカルチェックを行うとともに,スポーツのメディカルサポート体制の在り方についても提言していきたいと考えています。


物理療法による運動器障害の予防:関節への温熱療法

 これまで述べてきたように,スポーツ活動は健康の増進につながる反面,身体に対する過度の負荷から種々の障害を生じるリスクを内包しています。
 骨にかかる衝撃を和らげ,スムーズな関節の動きをサポートしてくれる軟骨組織には再生の原料を運ぶ血管はありません。また,軟骨細胞には軟骨組織を再生する能力はありません。軟骨の変性によって運動能力や歩行能力が下がることは,“健康寿命”の短縮につながります。加齢によって軟骨が徐々に変性していく速度を遅くしたり,スポーツ活動による軟骨への傷害を最小限にしたいとの考えから,“温熱刺激による関節軟骨保護作用の誘導”をテーマに研究を進めています。軟骨細胞は45℃くらいの温熱ストレスに曝されるとさすがに死滅しますが,40~41℃くらいだと細胞のバイアビリティが高まり,軟骨組織の維持に重要なヒアルロン酸やプロテオグリカンの分泌が促進します。また,軟骨を温熱に曝すとヒートショックプロテインと呼ばれる細胞を保護するタンパク質が発現します。温熱療法をうまく利用して軟骨組織の障害を予防して健康寿命や選手生命に重要な運動器である関節を長持ちさせたいと考えています。

北條先生画像

北條 達也 教授

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