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教員コラム

Vol.12 天然繊維を活用したスポーツウエアの応用とエコロジー

はじめに

CO2をはじめ種々の化学物質による地球温暖問題は深刻であり、世界規模のCO2削減量については解決の糸口が見つかっていない。私たちの生活の中で最も身近な衣服素材を考えてみると、ほとんどの衣類は合成繊維でできていて、「焼却時の地球温暖化」や「有害ガスの発生の恐れ」といったことが懸念される。衣類メーカーは企業理念としてエコロジーの視点を再認識せざるおえない現状となった。そこで、合成繊維メーカーは、「地球環境に優しい」天然繊維の活用を徐々に見直し始めている。環境に負荷をかけない環境保全改良型商品開発として、衣服の場合、天然素材を活用することが第一である。中でも、テンセルは精製セルロース繊維の天然素材であり、肌触りがなめらかな特徴をもっていることから、女性用のワンピース、シャツ、カーディガンなど容易にデザインできる。テンセル衣服は店頭やネットにて販売されるなど、成功例の代表となった。

天然素材の特徴

 テンセルに代表される天然素材の特徴を明らかにするために、私たちの研究室ではテンセル素材を使ってブラウスを作製し、足浴による温熱負荷を課した。その結果、テンセル素材の吸湿性は高く、蒸発性自由水分量が多いことから、暑熱負荷した場合でも衣服内気候変動をかなり抑えられることがわかった。平たく言うと、汗をかいても肌と衣服の間であまり蒸れないということである。さらに、私たちの研究室では、テンセルに代わる天然素材として一般に畳表として使われているイグサに着目した。切り落としたイグサの廃材を利用して環境にやさしい衣服素材を開発した。その製法はまずイグサをすり潰し、これを綿と混紡して布地を制作する。種々にイグサの配合を変えて、綿とイグサの配合が8:2まで成功した。綿80%+イグサ20%混紡布地を作製し、テンセル同様に温熱生理学的な製品評価を試みた。
上林 清孝 准教授

福岡 義之 教授

衣服衛生の感性評価とは

 衣服は人体の皮膚に直接密接しているが、厳密には衣服と皮膚との間に空気層が出来上がる。この皮膚と衣服との間隙を衣服内気候といい、衣服内の温度、湿度、気流の因子が関わっている。このうち温度と湿度の影響が快・不快に大きく影響し、快適性を保つためには、衣服内湿度が60%~40%、衣服内温度が30.5°~33.5°の範囲にあるとよい。安静時では快適、やや快適の範囲内にはいることが多いが、運動のように発汗を伴う場合には衣服内の温度、湿度ともに急激に上昇し、快適感が不快に変わる。

実験的検証

健康な成人女子を対象に、人工気候室(26℃、湿度60%RH)にて42℃の温水に下肢を30分浸漬、温負荷後30分間の椅座安静を行った。被験服は長袖ブラウス2種類(綿100%、綿80%+イグサ20%混紡)とした。皮膚温は胸部、背部、前腕部、大腿部、下腿部の4ヶ所を測定し、平均皮膚温を算出した。さらに、深部体温(耳内温)、衣服内温湿度、前腕の血流量、局所発汗量(胸部、前腕部)を同時測定した。(実験写真)
igusa
その結果、温熱負荷に対する衣服内温度・湿度の変化から、衣服内湿度はイグサ混紡で温熱負荷後の回復期に高いレベルを保持した。また、衣服内温度は背部でイグサ混紡が高い傾向にあった(下図)。
発汗量と衣服内湿度との関係において、右図にあるようにイグサ混紡の上衣が同じ発汗量に対して約10%の高い衣服内湿度を保持した。これは、衣素材の物性特性の一つである保温率の差異とほぼ同等であり、イグサの高い吸湿性によって同じ発汗でも衣服内湿度が高い。このような高い吸水性は湿潤熱を誘発し、寒冷環境での熱産生においてプラスの効果と考えられる。

天然素材を生かしたスポーツウエアーへの提言

イグサ混紡の上衣着用の製品評価では、衣服内の保湿効果が高く、吸着した水分の蒸発がしにくいことが明らかとなった。衣服内湿度の上昇は不快となるが、水分吸着性の亢進によって湿潤熱を発生する。このような衣素材は、暑熱環境下ではマイナスの負荷を与える。しかしながら、例えば、冬季の低温・乾燥した環境において、運動で汗をかいても速やかに衣服が吸着し、衣服自体に湿潤熱を産生させ、運動終了時の急激な体温低下を緩和する効果が期待できる。さらに、イグサ混紡は水分吸着によって衣服内の湿度を高く保てるので乾燥肌には保湿効果が期待できる。これらのことから、秋季登山などの着衣としてテンセルはじめイグサ混紡の天然素材は最も有効であろうと考えている。また、イグサは100kgで約1tの吸水能力を有することから、水泳トレーニング時の荷重(錘)の代用として、イグサ混紡のトレーニング用水着について考えていきたい。

資料
田北智津子、兼子良子、香川治美、福岡義之 温熱負荷時の体温調節からみたテンセル素材衣服の特性 日本家政学会誌56巻p753-p759 2005.
兼子良子、田北智瑞子、青木朋子、福岡義之 衣服環境における快適素材としてのイグサの利用 日本家政学会誌 59巻 p231-p236 2008.

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