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教員コラム

Vol.13 女性教員のワーク・ライフ・バランスについて

 研究に関するコラムが続きましたので、ここは趣向を変えたものを。本学にゆかりのある新島八重は明治・大正時代、男尊女卑の風潮が根強い中、時代に先駆けて活躍した女性でした。その時代から80年以上経った今、女性の社会進出が広く謳われるようになりました。ところが、本学部に所属する女性教員は現在のところ私一人のみ。この立場を活かして、女性研究者の現状を私の視点で書き進めていきたいと思います。
稗田 睦子 助教

稗田 睦子 助教

女性研究者を取り巻く環境

 「女性研究者」というと古くはキュリー夫人などが有名ですが、日本ではここ最近、謎の万能細胞の作成に成功したという女性研究者が一躍時の人となりました。彼女の研究論文に疑惑が持たれる前は、「世紀の大発見!」ということで謎の万能細胞に期待が高まりました。しかし、世間の関心は次第に「謎の万能細胞」ではなく、女性研究者その人に向けられていきました。彼女の着ている服のブランドやら、割烹着やら、実験室の壁の色やら…どうでもいいことが連日ワイドショーや週刊誌で取り上げられるまでに。もし、謎の万能細胞を発見したのが男性研究者であったならば、これほどまでの社会的関心は持たれなかったでしょう。実際、ノーベル賞を受賞した京都大学の山中教授がiPS細胞を発表したときでさえ、あそこまでマスコミ報道が加熱することはありませんでした。
何故、世間はこの女性研究者に異様とも思えるほどの関心を寄せたのでしょうか。考えられる理由の一つとして、「女性研究者」という存在が天然記念物なみに希少だからという事実が挙げられます。日本における研究者に占める女性の割合はたったの14パーセント。先進国の中で最下位です(図1)。

(図1)
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日本の研究水準は高く、世界に誇れる科学技術の先進国ですが、残念なことに、女性研究者が進出する環境としては後進国なのです。女性研究者が少ない最大の理由として、結婚や出産・育児などのライフイベントと研究の両立が難しいことがあげられます(図2)。

(図2)
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人は皆、平等に1日24時間を与えられていますが、時間の使い方には男女間で格差が生じます。男性の場合、1日の時間の使い方にライフイベントはさほど影響を与えません。むしろ結婚をすることで洗濯や料理などの日常雑事から解放されることが多いでしょう。しかし、女性の場合はそうはいきません。結婚によって家事の時間が増え、研究を行う時間が削られます。妊娠・出産時には研究そのものを断念または中断せざるを得ません。研究者は研究業績を出すことが求められる職業です。特に若手研究者にとって研究業績は、アカデミックポスト(大学教員)という椅子取り合戦に参加するうえで重要になります。女性研究者が限られた時間の中で家庭と研究を両立させながら、男性研究者と競い合うことは、現在の日本の環境では非常に困難であり、「女性としての生き方」か「研究者としての生き方」のどちらかを犠牲にしている女性研究者が多いというのが現実です。

妊娠・出産したことで見えてきた「女性研究者」という立場

 私は今年の1月に第一子を出産しました。母親となった私には、今まさに「女性研究者」という現実が突きつけられています。独身時代は自分が女性研究者であるということを特段感じたことはありませんでした。まぁ、普段から化粧はしませんし、スカートもあまり履かないので、私自身、女性という意識が希薄ということもあったからかもしれません。そんな私が同業者の男性と結婚。家事は夫婦で分担していたので、結婚が仕事の支障とはなりませんでした。妊娠中は悪阻が軽かったので、大きなお腹で学外の研究機関に出向いて共同研究を行ったり、実技科目であるスポーツパフォーマンスの講義を担当するなど、妊娠前とさほど変わらない生活を送っており、このときは出産後の生活がいかに大変なものなのか、想像もしていませんでした。
難産の末に生まれた息子を抱えての初めての育児。わからないことだらけで戸惑うことが多いうえ、昼夜関係なく授乳とおむつ替え。慢性的な睡眠不足の中、読むのは研究論文ではなく育児書。心身ともに大変な私に研究のことなど考える余裕はなく、研究の世界から自分がどんどん遠ざかっていくことを実感しました。
産休後は、夫が1年間の育児休暇を取り、私が大学に復帰することになりました。ペットのカメしか育てたことのない夫に育児を任せることは不安でしたが、現在イクメン歴2ヶ月となった夫は、試行錯誤しながら育児を楽しんでいるようです。私は大学に復帰したとはいえ、産休前の生活に戻ったわけではありません。毎朝、笑顔いっぱいのかわいい息子に後ろ髪を引かれながら仕事に向かいます。大学にいる間も「予防接種はいつだっけ?」「おむつを買わなきゃ」など育児に関する考え事が頭の中の半分以上を占めています。なるべく早く帰宅するようにはしているのですが、仕事の帰りが遅いときは、指をくわえながらすでに寝ている息子を見て、母親として申し訳ない気持ちになります。女性は出産後に大量のオキシトシンというホルモンが脳から分泌され、母性がスイッチオンされるようになっています。女性研究者が子育てと研究の両立で悩むのは、溢れる母性のせいでもあるのかもしれません。

女子学生のロールモデルとして

 研究職のみならず、女性が将来のキャリアパスを考えたとき、結婚をする・しない、子供を持つ・持たないなど、様々な選択をしなければなりません。女性の社会進出を促進させるためには、女性から選択肢を奪わない、また、どのような選択をしても、後悔をしない、後悔を感じさせない社会環境が必要です。これは、独りの力で出来るものではありませんが、新島八重のように、女性が一つ一つ「ガラスの天井」を砕いていく経験を積み重ねて獲得していくほかないのです。私の経験が後に続く女子学生や女子高校生のロールモデルになれるよう努力していきたいと思います。

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