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教員コラム(庄子 博人)

スポーツは投資対象になれるか

1)時代が変わった

庄子博人 庄子 博人 助教

 私は、スポーツビジネスを研究しています。スポーツの産業化、がメインテーマですが、常々思うのは、スポーツで稼ぐ、というと世間にあまり良い印象を与えないということです。それはなぜかというと、これまで日本のスポーツは、体育や部活として「ほぼタダ」でできたために、スポーツに対してお金を払う意識がないことが理由として考えられます。フィギュアスケートなどの一部の種目を除いて、ほとんどの部活動は、格安だったはずです。格安というとシューズや用具にとてもお金がかかった、と反論されそうですが、実は最も費用がかかるのは、グラウンド・プール・体育館などスポーツ施設の建設維持費であり、次に指導者やコーチの人件費です。安い体育館でも数億円するので、利用者(生徒)が直接負担することは事実上不可能でしょう。これらは利用者(生徒)が負担するのではなく、税金で負担されてきました。つまり日本のスポーツは、政府や自治体に支援されて発展してきたと言えます。それはスポーツにとっては幸福な時代でした。
 しかし、国と地方の借金が1,000兆円を超え、社会福祉に多くの費用が割かれる昨今、スポーツに対してこれまでのように無条件に財政支援を求める時代は終わりつつあります。スポーツに限りませんが、このような財政支援モデルは、人口増加が期待でき、長期的にマクロ経済が成長する見通しなくては成り立ちません。このような中、スポーツ庁の鈴木大地長官は、スポーツ未来開拓会議の挨拶で「スポーツで稼ぐという風土を作る」と明言しました(経済産業省,2016)。この発言には、2つのポイントがあると思います。
・スポーツがビジネスになる
・日本経済の発展にスポーツ産業が期待されている
ということです。まず1点目は、スポーツが税金などの支援ではなく、自ら稼ぐビジネスになる可能性を秘めているということ、2点目は、スポーツが産業として日本経済のエンジンになるということです。

2)日本のスポーツ産業

それでは日本のスポーツ産業はどのくらいの規模なのでしょうか。様々な研究がありますが、筆者も共同研究として参画した日本政策投資銀行の試算を表1に紹介します。

グラフ

 日本のスポーツ産業は、総額で約11兆4千億円、競馬や競艇などの公営競技を除いた小計で約7兆円です。競馬や競艇などはスポーツ産業に入れるかどうか議論もあるところなので、それ以外の割合を見ると、約3割を施設が占め、次に小売、教育と続きます。日本のスポーツ施設は多くの場合、公共施設なので、教育と施設を合わせて公的部門が5割超となっています。今後は、スポーツツーリズムなどの旅行、プロスポーツなどの興行の分野に成長が期待されています。
 スポーツ産業を成長させるときに重要なポイントとなるのが、生産(企業)・消費(需要)・分配(雇用)の3つの観点です。国の全ての産業合計で見ると常に同じ金額になるので、三面等価と呼ばれています。企業の生産を誘発し、消費者の需要を高め、雇用を生み出す、そう言った正の循環になるようにスポーツ産業を振興していく必要があると思います。 

3)今後のスポーツ産業の方向性

 それでは具体的にどうすれば良いか、そのヒントを企業戦略から見たいと思います。米国のNikeは、売上高は約300億ドル(1ドル=100円で約3兆円)であり、世界最大のスポーツ関連企業になっています。2013年には、米国の上場企業を代表するダウ30銘柄に選ばれ、世界中の投資家から注目されています。Nikeが世界的な企業となれたのは、マイケルジョーダンなどの一流選手と契約してブランドを確立したことが成功要因と言われています。しかしそれだけでは、3兆円企業になれなかったはずです。もっと重要な点は、一般消費者にNikeの製品を街中でも着用してもらうことに成功したことが大きいと考えています。つまり、単なるスポーツ用品メーカーというよりは、一般消費財もしくは生活必需品に近い企業になっているということです。現在、日本のスポーツ関連企業で最大と考えられるのは、アシックスです。売上高は約4,000億円で東京オリンピック・パラリンピックの公式スポンサーにもなっています。Nikeと同様に、アシックスは、アシックスウォーキングやオニツカタイガーなどを強化し、スポーツで確立したブランドを生かしながら一般消費者の必需品を生み出す企業になろうとしています。
 このように、スポーツ消費者の市場だけでなく、スポーツというビジョンを持ちながら、一般消費者にいかにアプローチできるかが今後のスポーツ産業の重要な視点になります。それはメーカーに限らず、すべての分野に共通しています。例えば、スタジアムにしても日本では、郊外で使い勝手が悪く、試合のある日以外は誰も行かないことが一般的になっています。しかし、Jリーグやプロ野球など、プロスポーツが開催できるのは年間30日〜50日くらいでしょう。残りの期間は、維持費だけがかかるコストセンターになってしまいます。欧米のスタジアムでは、ショッピングモールや映画館などを併設し、試合のない日でも人が集まる高収益の施設づくりに成功している例もあります。
スポーツは、人格形成、健康、生きがい、など人々の生活を豊かにしてくれるものだと思っています。しかし一方で、ビジネスとして成立させなければ、日本のスポーツが機能していかなくなる時代になってきました。とはいえ、今後も政府・自治体・企業の協力は必須です。そこで、これからは、スポーツにかかる費用が「コスト」としてではなく、「投資」として認識されるような、スポーツビジネスの基盤を確立することが重要であると考えています。

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