学部長からのメッセージ
スポーツ健康科学を探求しよう
人は母親の胎内で受精後3週間くらいから心拍が始まります。生命体としての運動の始まりです。その後出産を経て母親から離れてそれぞれ個々人としてこの地上での活動を始めます。この世に生を受けてからその死まで絶え間なく活動を続けるのが動物としての宿命です。その活動をできるだけ輝かしいものとするためには、身体が健康であり続けることは大変重要なことです。これは人に限らずこの世に生を受けたすべての動物に共通することですが、人は幸いなことに他の動物にはない英知というすばらしいギフトを神から授けられました。その英知を利用して文明を発達させ、文化を育んできました。
人体の神秘、生命の神秘を科学的に解き明かし、多くの病気や傷害に対して合理的な治療を施せるようになり、人は今もその寿命を延ばし続けています。この科学の進歩の中で解明されてきた生命活動の普遍的な事実は、地球の重力下で動物は動くことでその身体能力が維持できるように進化を重ねてきたということです。裏返せば、動けなくなると早晩その生命活動が終焉を迎えるということでもあります。重力に抗して動くことによって、その活動に必要な筋肉は新陳代謝を繰り返して新たな筋肉を作り出し、心肺機能も維持されます。体重や筋力による負荷によって骨は強靭になります。運動に必要なエネルギーを摂取するために消化器官の活動も活発になります。このように人の生命活動の根幹に運動があることは普遍的な真理といえます。医学が発達したことで、人は薬やサプリメントを飲めば健康を維持できるという誤った認識をいだき、生命活動の根幹である運動をおろそかにする傾向にあります。運動を科学的に探究して、多くの人々がその知見を享受し、生命の根幹である運動の重要性を再認識してもらうことが、スポーツ健康科学部で学ぶ大きな意義のひとつであると考えます。
また、自然界に存在する生物には、種の保存のために闘争本能が与えられています。人もその本能のために幾度となく争いを繰り返し、残念なことに現在も戦争がなくなってはいません。しかし、人が他の動物と異なるところは、英知による文明の発達によって、スポーツという文化がもたらされたことです。スポーツ活動は、命を奪い合う戦争ではなく、一定のルールに則って人の身体能力を競い合う活動です。これによって人はその闘争本能を理性的にぶつけ合って勝敗や優劣を決することができます。そして、その勝者を称えるだけでなく、敗者に対してもその努力や行動を称賛するのです。スポーツ活動は、競技者だけでなく、応援する観客、競技者や競技会の運営を支える人たちなど、それに集まるすべての人が関わる非常に大きな文化活動といえます。競技に勝つために身体能力の向上を極めることは、怪我や身体の故障にもつながりかねません。トップレベルの運動能力を引き出すことを探求しながら、健康を損なわないようにサポートをすることは、人の運動能力の究極を科学することでもあります。人にしかできないスポーツという文化活動を多面的かつ科学的に探求して、それによって得られた知見から、スポーツの面白さ、多様性、奥深さを多くの人々が享受できるようにすることも、スポーツ健康科学部で学ぶ意義と考えます。
同志社大学は教育理念のひとつに『自由主義』を掲げる大学であり、学生の可能性を信じ、個性を大切にし、一人ひとりが自発的に行動して自分の力を発揮できる教育環境を可能な限り整えています。この優れた教育環境を大いに活用して、校祖新島襄の求める「良心を手腕に知識、能力を運用し、社会に貢献する人物」を目指していただきたいと思います。スポーツ健康科学部での学びは、人が持つ生命活動の根幹である運動と健康との関係を科学的に解明してその重要性を広く社会に還元すること、さらには身体を用いた究極の文化活動であるスポーツの楽しさや意義、さらにはその重要性を探求して社会に享受することであり、同志社大学スポーツ健康科学部での学びを通して、社会に貢献できる人となって羽ばたいてほしいと願っています。