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教員コラム(海老根 直之)

スポーツ健康科学部での学び

_DSH6536.JPG  (100674) 海老根 直之 教授

教員コラムの依頼を受けたところまでは良かったのですが、何を書くべきかと頭を悩ませました。おそらく学部のHPを熱心にご覧になるのは、これからスポーツ健康科学の領域へ進学しようと考える生徒さん、または現在お子さんが通学されているご家族の方ではないだろうかと思います。そこで、本学部生がどのような学びを行っているのかを私の目線から紹介することでスポーツ健康科学部への理解を深めて頂こうと思います。
 スポーツ健康科学部が力を入れており、HPやリーフレット上でもたびたび登場するキーワードとして「少人数教育」があげられるでしょう。そこで今回は本学部生が少人数教育としてどのような授業を経験しているのかを時系列で紹介しますので、通常の座学との違いを感じて頂けたらと思います。あくまでも私の個人的な視点ですので、他所での説明とズレを感じられるかもしれませんが、その点はコラムに免じてご容赦を…

1.ファースト・イヤー・セミナー

 まず、導入教育として入学直後に全員が受講することになるのがファースト・イヤー・セミナーです(FYSと略しています)。本学部の特筆すべき特徴は、様々な背景を持つ学生さんが多様な入試制度によって入学してきてくれていることです。新しい環境に入ると背景の似た学生でまとまりがちな傾向にありますが、これを意図的に分散させて、新たな出会いの場となるようにFYSのクラス分けが行われます。優れた競技歴を持つ学生、社会人経験のある学生、多様な目的志向を持った学生が一堂に会すことで相互に大きな刺激を受けあうことになります。また、本学は全国区の大学でもありますので、育った地域の異なる者同士が仲間となっていく様はとても初々しく、自分の学生時代をも思い起こさせます。私は福島県の出身なのですが、近頃は東北地区からもたくさんの学生が進学してくれるようになり、頼もしく感じています。
 次に、FYSの中身について触れていきます。まず、20名程度の少人数にクラス分けされ、各クラスに教員が割り当てられます。教員は「担任の先生」の役割を果たします。学生と身近に接する事が出来ますので、一人ひとりがどのような特徴のある学生かも把握し易いですし、学生としては教員が身近な存在に感じられていると思います。FYSの担当教員は、在学中を通じて学生が困ったときの相談役になりたいと考えているわけですが、不思議とFYSで担当した学生が後に待ち受けているゼミで指導教員として希望してくることが多いのは、勉強したいと考える分野が教員の専門性と一致するからだけではなく、FYSにおいて信頼関係が生まれているからではないかと想像しています。
 FYSは全クラス共通のプログラムで展開されている授業ではありますが、詳細は教員に任されており、それぞれが最良と考えるプログラムが提供されています。クラスの反応や学習進度を見ながら内容を適宜調整出来るのも少人数クラスならではの利点といえます。私自身は学部設立時からずっとFYSを担当し、今年で6年目となります。毎年、クラス毎の雰囲気の違いを感じながら、楽しく取り組ませて頂いています。特に、ディベートには力を入れて取り組んでおり、学生の印象に残る活動の一つとなっているようです。ディベートでは、意図的に自分の主張と異なるチームで参加してもらったりと多面的な思考が引き出される様に促したりもするのですが、学生もこちらの意図をくんだユニークな発言で場を盛り上げてくれます。FYSの授業最終回では別れがつらいように感じるのですが、これは一般的な形態の講義では経験し難いものです。

2.基礎実習

 学部が円熟してきたことで、さらに良いカリキュラムを提供したいという教員の思いを具現化したものとして、今年度から基礎実習が開講されることになりました。これは、スポーツ健康科学を学ぶための基盤となる知識と技術を各種の実習・実験を通じて身につけてもらうためのプログラムです。FYSで教授されたレポートの執筆法に、実践を通じて磨きをかける場でもあります。週替わりで、トレーニング法や体力測定の方法、またはピペットの扱い方を含む基本的な実験手技について学習するものです。3講時続けての実習となりますので学生にとってもなかなか覚悟のいる授業となっています。教員側も準備に時間をかけて授業に臨んでいます。FYSを踏襲し、少人数クラスで運営され、今年度は12名程度のクラスとなりました。嬉しいことに、「なぜこのような授業を受けさせられるのか分からなかったが、受けてみると大切さが分かった」、「座学の授業内容の理解が深まった」という肯定的な感想が多く聞かれております。新設された授業としては大成功を納めているのではないかと勝手に喜んでいます。
 私の担当するクラスでは、出来るだけ学生に主体的に取り組ませるために、意図的に不十分な情報提供で課題に向かわせたりもするのですが、チームで工夫を凝らしながら取り組む姿をみて、同志社大学生たる力のある人材が入学してくれているのを感じます。また、スポーツ等の経験により、チームでの活動が身についているようにも見受けられます。スポーツ科学も健康科学も、座学のみで成り立つものではありません。実習や実践の機会を大切にして欲しいという教員の思いを学生も感じ取ってくれているように思います。五感にうったえての学習は分野的にも相性が良いのでしょう。
 特に力を入れて説明されることはないのでしょうが、この基礎実習は、実はセカンド・イヤー・セミナーとしての位置づけもあります。FYSの理念を受け継いで、改めてクラス分けが行われますので、背景の異なる学生との新たな出会いの場となります。歯ごたえのあるレポートが課される場合もあるのですが、それぞれの学生が得意分野を生かし、力を合わせて取り組む姿は、見ていて微笑ましいものです。夜遅くまでレポートに取り組んで、それでも終わらなくて早起きして頑張った。という経験をした学生は数多くいます。部活動やサークル活動と両立してのことですので、時間の管理も身につくのでしょう。
基礎実習が整備されたことで、本学部は全ての学年で少人数教育が準備されたことになります。まだ設立して6年目と若い学部ではありますが、継続的な学生のケアが出来ていると自信を持てる環境になりました。スポーツの指導も、健康へのアプローチもまずは人を見ることから始まりますので、スポーツ健康科学を冠する学部としてふさわしいシステムでもあるのだろうと思います。

3.ゼミと卒業研究

 FYS,基礎実習に続く少人数教育のカリキュラムとして、3年生からは「ゼミ(演習)」が始まります。最終学年の本学部生には、学びの集大成としての卒業論文の提出が課されます。端的に説明すれば、ゼミは研究・調査を実施して卒業論文を仕上げるための準備を整える授業です。ゼミも卒業研究も必修科目ですので、全ての学生が卒業証書と共に自らが仕上げた論文を一つ携えて卒業することになるわけです。FYSでレポートの書き方の基本を学んだ学生が最終的には学術的な論文を書き上げるに至り卒業するのです。
 3年次の学生は自分の興味関心に基づき所属するゼミを選択し、自らテーマを決めて研究を行っていきます。これは、学生にとってたいへん大きなハードルといえるでしょう。私はこれまで、「ゼミと卒業研究を通じて身につけた問題解決のスキルは社会に出てから必ず生きるから頑張る価値がある」と説明をしてきたのですが、最近とても嬉しい出来事がありました。卒業して1年半が経過した1期生から久しぶりにEメールが届いたのですが、内容は、卒業論文をメールで送って欲しいというものでした。社会人2年目になった今頃になってなぜ?ととても不思議に思いながらやりとりをしてみると、仕事として論文を書く必要性が生じたため、自分の卒業研究を読み返して参考にしたいとのことでした。まとまりのある論文なら探せばいくらでも出てくるでしょうが、確かに、自分が頭を悩ませながら夜も寝ないで書いた論文であれば、いくらか至らない部分があるにせよ、何よりも役立つ資料になり得るのでしょう。また、会社に入社した後、卒業論文を提出する様に命じられたということで、増刷を依頼してきた学生もおりました。努力をつぎ込んだ卒業研究は、卒業して社会に出てからその本当の価値に気がつけるのかもしれません。
 幾らか蛇足になりますが、これまでコラムを執筆された先生方が専門の研究分野について解説されておりますので、ゼミ活動(研究室活動)に関連づけて、少しだけ説明したいと思います。私はスポーツ栄養学の講義を担当しており、栄養や代謝に関するテーマを研究として取り扱っています。例えば、スポーツドリンクを上手に利用するにはどうしたら良いかなども進行形のテーマです。特に、エネルギー代謝の研究が私自身の専門分野なので、学生の多くはエネルギー代謝と関連する題材を卒業研究のテーマとして選択します。具体的には、健康補助食品やサプリメントがどの程度代謝を高めるのか、環境の刺激が代謝をどのように変化させるのか、といったものです。前述の基礎実習で学ぶレベルの手技を駆使した研究となりますが、代謝の変化を検知するには、短時間に要点を押さえた緻密な作業をこなす必要があります。何とか手順をこなせるという手技レベルでは全く通用せず、自分のスキルと繰り返し向き合うこと、また、ゼミメイトと協働することが求められます。これが実に良いと思うのは、スポーツにおける鍛錬と姿勢の作り方が共通していることです。学生らは何度も試行錯誤の予備実験を行い、多くの時間を実験室で共に過ごします。一人で出来る実験は皆無です。次のステップにはデータの解析が待ち構えていますので、4年次終盤の学生には朝から晩まで磐上館で生活する様子が見られます。このような苦労を共にした学生の結束は素晴らしく、他人の成功を自分のものとして共有する姿には私自身も大いに感動させられます。卒業研究は、今後の人生の素敵なお守りを自ら作る作業であると、学生には言い聞かせています。

4.さいごに

 学生がどのように学び、育っていくのかについて、幾らかでも様子を知って頂こうと思い書き連ねましたが、伝えたいことがたくさん思い起こされ、まとまりがない文章となってしまいました。
 およそ6年前、スポーツ健康科学という新しい学問分野に期待と夢をもって飛び込んできてくれた1期生は、社会人2年目を迎えています。お節介者にならないように、社会人として独り立ちして頑張っている若者に対しては、 いつまでも先生気分で偉そうな物言いをするのは控えています。しかし、卒業生に対しても、ついつい思い入れ深くなってしまうのは、少人数教育のカリキュラムを議論した学部設立当初には想像し得なかった、嬉しい副産物のようにも感じます。 どうやら、つぎ込んだ努力が大きく育って帰って来るのは、何も学生に限っての話ではなさそうです。

図1

スキルアップ講習会の様子

(2)

Hood法での代謝測定

(3)

ご褒美となった誕生会