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教員コラム(松倉 啓太)

私が担当しているコーチング論。

151216_0081.jpg   (100609) 松倉 啓太 准教授

 「コーチング論って何を学ぶのですか」という質問をよくいただきます。
そのような時は「強いていうなら全部です。」って答えています。
 近年「コーチング」という言葉は、スポーツはもちろんのこと、ビジネスの場面でも頻繁に用いられる用語であります。諸説ありますが、「馬車」が語源であり、「対象の者を目的のところへ導くという」意味をもっています。 そこには「正しい方向を示し」、「その方向へ向かわせる」という大きく分けて2つの段階があります。これらはスポーツの指導はもちろんのこと、仕事の場面、子育てといった場面でもコーチングが行われているからといえるでしょう。
 コーチングの流れは大きく分けると「現状」を分析し、「課題」を抽出し、そこから改善すべき「目標」を設定し、そこに到達するための手段として「トレーニング」などを行っていきます。スポーツで言えば、ある一つの現象(プレー)があったならば、 そのメカニズムを生理学やバイオメカニクスから分析し、失敗成功の要因を見つけ、それを向上させるトレーニングを行うために、どのような動きをさせるかを考え、適切な負荷、休息を与え、指導内容をどのように伝えるか、 どのように修正点をフィードバックすることが選手に効果的なのかを考えていくことになります。また選手の年齢や、体の発達具合、試合までの期間に応じて、いつ、どのようなトレーニングを行うのかも大事な問題となる。 現在では機器の発展によってパフォーマンスの分析や、映像撮影、映像編集に関わる製品の小型化や測定精度の向上によって、より詳細かつ即時性の高い分析やフィードバックが可能になっています(例:GPS、トラッキング、ウェアラブル端末など)。 私の研究室でも位置情報を取得できる小型のウェアラブル端末を用いて、トレーニングの負荷やパフォーマンスの測定を行っております。

教員コラム1

Catapult社ホームページ(http://www.catapultsports.com/jp/)より写真引用。

教員コラム2

小型の位置情報取得端末。選手は写真のベストを着用の上、背中上部に端末を装着する。移動速度や加速度、運動負荷等を測定し、リアルタイムでデータを確認することも出来る。

このようにコーチングの第1段階として、専門領域への知識、経験を元にあるプレーに対して様々な角度から分析し、トレーニングを構築することで「正しい方向を示す」ことが重要になります。
 しかし指導者は第2段階として「正しい方向を示す」だけでなく、その方向に選手自らが進んでいくようにしなくてはなりません。つまり強制されてやるのではなく、意欲的に(モチベーションを高く持って)改善すべきことに取り組むように働きかけていくことが求められます。心理学の分野である行動分析学において、「行動は、行動のもたらす効果によって影響を受ける」※1とされていて、行動の効果として「好ましいこと」が起きれば、その行動を「続けよう」、「また行おう」となります。逆に行動の結果として「嫌なこと」が起こったら、その行動を「やめよう」、「もうやらない」というようにある行動の結果が、その後の同じ行動を起こす力を強化するか、弱化するかに影響を及ぼすとされています。例えば「寒い日に暖かい缶コーヒーを飲んで体が温まった」となれば、「また同じ状況で同じことをしよう」となるでしょうし、「暑い日に暖かい缶コーヒーを飲んだら、かえって気分が悪くなった」となれば、「また同じ状況で同じことをしよう」とはならないでしょう。すなわち意欲的に取り組むことが出来るかは、何を行うかではなく、その効果がどのようになったかが重要であるのです。スポーツの指導に置き換えれば、選手が「一つのプレーをした」という行動があったとして、そのプレーに対して、指導者が「良いプレー」と判断して発した言葉や、示した態度を通して、選手が「心地良くなった」、「自信がついた」などと感じれば、またそのプレーへのモチベーションが上がり、そのプレーをしようとすることが習慣化されていきます。これは選手の成長において非常に良いサイクルであると言えます。逆にプレーの結果、「怒られたり、批判ばかりされてプレーすることが嫌だ」と感じてしまうような指導者の態度や働きかけが続くと、その種目を行うこと自体へのモチベーションが低下し、競技をやめるなどの悪いサイクルに陥ってしまうこともあると言えます。さらに考慮しなくてはならないのは、個人個人によって、人前で褒められるの心地よいと感じる人もいれば、逆に恥ずかしいので、こっそりと褒めてもらうことを喜びに感じる人もいます。指導者は同じように「褒めている」つもりでも、フィードバックの与え方一つで良いサイクルに繋げることも出来る一方、そのチャンスを逃してしまうこともあり得ると言うことです。指導対象の特徴にも配慮できることが素晴らしい指導者なのかもしれません。
 このように第1段階として、「正しい方向を示す」、第2段階として「その方向へ向かわせる」という2つの目的から、「コーチング論」というのは「全部学ぶ必要がある」のだと思っています。講義だけでなく、普段の友人との遊びや、バイト先の人間関係の中にもコーチング論として学ぶべき内容はたくさんあると思います。日々そこにアンテナを張っていればたくさんの知識や経験が得られるかもしれません。知識という用語ばかり使うと、「頭でっかち」になってはという思いを抱くかもしれません。しかし、大前提として指導者が持つ知識や経験は少なければ話にならず、いかに持ち得た知識や経験を活かすかが本当の勝負であると思います。一つの課題にいろいろな視点から問題解決の取っ掛かりを持てることは大きな武器であるといえます。その武器がないと、指導に自信を持てずに、選手のミスをただ叱責することや、選手に責任を転嫁すること、不確定な要素(例:メンタルが弱いから、本番に弱いから)に要因を見出すようなことをしてしまうのかもしれません。様々なことを学び、知識や経験をどれだけ深められるかは、「その種目のこと」を、「選手とともに成長していくこと」に本当に熱意をもって臨めるかにかかっていると思います。私自身も、「コーチング」を行う、伝える者として熱意を持って知識・経験を深め続けられるよう取り組んでいかなくてはいけないです。皆さん一緒に頑張りましょう。

 ※1 『行動分析学入門』:杉山尚子(2005)